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「大腸肛門外科医は10年つとめて一人前」を検証する
「大腸肛門外科医は10年つとめて一人前」
自分が現在所属している某大腸肛門科専門病院に勤務した時、院長にさいしょに言われた言葉がこれである。
吉本隆明氏もこう言っている。
「同じことを10年間続けてものにならなかったら、私の首をさしあげましょう」
他でも似たような意味合いの言葉がある。それが中谷巌氏のこの言葉。
「スペシャリストになるには、10000時間ひとつのことを継続せよ」
10年間と10000時間。
表現のしかたはそれぞれ異なっているが、どちらも「スペシャリストとして飯を食えるようになるには長年の修行が必要」ということでは共通している。
だから2年や3年の修行で「大腸肛門外科の専門家」を自称するのは、この道のベテランからみると「ちゃんちゃらおかしい」ということなのかもしれない。
10年間と10000時間にはどういう関係があるのか、かつて自分なりに検証してみたことがある。
大腸肛門科の医師は「大腸外科」か「肛門外科」のどちらか一方の仕事を主としていることが多いが、ここでは自分が専門としている肛門外科で考えてみる。
肛門外科専門の医師に必要な二大スキルは、肛門科の仕事(肛門科の手術と診療)、および大腸内視鏡検査である。
一日のうち正味8時間仕事をしているとして、そのうち大体半分は肛門科の仕事、のこり半分は大腸内視鏡検査の仕事になっている。
肛門科の仕事と大腸内視鏡検査の仕事に、それぞれ一日4時間ずつ費やしていることになる。
まず肛門科の仕事で考えると、一日4時間で年間250日程度働くとして、一年で1000時間を費やすことになる。
そして肛門科の修行が10000時間に到達するのは10年かかることになる。
そして同時に、大腸内視鏡検査の修行時間も10年で10000時間に到達することになる。
(内視鏡は大学病院等にいた頃からやっていたので、こちらはもっと短くて済むかもしれないが)
本当にこの計算が正しいかどうかわからないが、たしかに10年やれば「肛門科」と「大腸内視鏡検査」の修行時間がそれぞれ10000時間に達することになる。
院長はこれまでの経験で「10年」とおっしゃったのであろうが、この言葉はたしかに「10000時間説」で裏付けられているということになる。
たとえば文章や絵の修行は一人でいつでもできる。
だから毎日狂ったように修行すればそれだけ早く10000時間に到達するので、3年や4年でモノになる人もいるのかもしれない。
しかし医師の修行は患者さんとかかわってナンボであり、一人でできる修行はきわめて限られているので修行期間を短縮することは難しい。
そしていくら修行したくても、症例のすくない病院ではどうしても10000時間に達するのが難しくなってしまう。
医師が数年の臨床研修を終えて専門分野の修行を始めるのは30歳に近くなってからである。
10年修行して専門家になる頃には40歳近くになっていることになる。
大学院に行ったのちに研究留学でもしようものなら、それはさらに5〜6年遅れることになる。
だから医師がひとつの分野でそれなりの専門家になれるチャンスは多くないということになる。
若い頃に十分な修行の機会を得られなければ、ひとつの分野のエキスパートになれる可能性はずっと低くなってしまう。
若い医師が都会の有名病院に集中するのも無理はない。自分の医師人生がかかっているのだから。
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